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成長すればね。きっと。覚悟とかもね。失うよりは。

夜の中。暗い夜の中、少年は跳ね起きた。まるでばね仕掛けの人形のような動きだった。

荒い息遣い。悪夢でも見たのだろうか。顔色はあからさまに悪い。

少年は一言。

「アスカ」

思慕、恋、恐怖、そういう類の感情の混じった声だった。
汗にまみれた手で、汗にまみれた顔を覆いながらそう漏らした。

表情は   見えなかった。



高級マンションの一室。どこにでもあるようでどこにでもない部屋。
そのリビングルームの中に、少年がぼけっと座っている。その隣には同い年くらいの少女。
遠くで蝉が鳴いている。雲一つもない空で、風もないのに、よく響く。

まさに、退屈な一日の風景のようだ。しかしこの部屋の一人は全く退屈してなどいなかった。

「ご飯まだ?」

少女が少年に問いかけた。少し苛立ちの混じった声だった。

少女を見る事もなく、少年は何も言わずにレンジを指差した。

「…」
そっけない。ひたすらにそっけない。

少女は、少し気を悪くしたようだが、別段文句を言う事もなく立ち上がってレンジに向かった。この少女には珍しい。いつもならこんな事ではすまないのに。
その間も少年は何か考えているのかいないのか、ぼけっと座ったままでいる。

「…」

不審げな表情を浮かべつつ、少女はレンジで作ってあった食事を暖めた。
その食事は少年が作ったものであるが、本来の少年の腕からは程遠い出来であった。メニューはチャーハンと、卵スープ、それにサラダ。しかもどれも出来合いの材料で出来ている。
いつもなら、少女のために腕によりをかけた料理を提供しているのに。

不審を通り越して、まるで犯罪を目撃した警察官のような目つきで、少年をにらんでいる少女。
目つきがかなり危ない。街中でこの目つきだと、彼女の美貌をもってしても誰も声をかけようとは思わないだろう。

しかし、少年はその視線をさらりと受け流す…というよりもただ生来の鈍感さの故、気づいていないだけか。なんら気にすることなく、宙を眺めている。

少女はさらに怪訝な顔をしたが、興味を失ったのか、それとも後になって徹底的に追求したいと思ったのか、たぶん後者であろう、レンジから昼食を取り出し、食事を始めた。


……


(どうしたのかしら?)

少女は、いつもと違う味にもまったく文句を言わず食事を続けた。いつもの彼女ならありえない。少しでも少年の料理に手抜きを感じるとすぐに作り直しを要求する。

気に入らないと言っても、決して自分では料理しないのだが。

これは少女が少年が嫌いということを意味しない。ただ、よりおいしいものを食べたいという、そして少年にわがままを言う事で、自分が少年にとって特別な人間であると感じたいためである。

(こういうことって初めてよね。バカシンジがこんなに無口だなんて。)
さらに思考は進む。

(朝から変だったのよ。朝ごはんもパンとジャム。スープだけ。お風呂も熱かったし。なんだかおかしい…。…ひょっとしていやがらせ………私何かしたっけ?)
何かしたも何も。毎日料理をさせて、身の回りの世話をさせて、買い物には付き合わせて。

確かに少女は少年に好意を持っている。それも特別な。
しかし天性の天邪鬼でそれを外には出せない。

「料理が女の仕事だなんて!あんたがしなさいよ!!」
(あんたの料理が食べたいの!!)

「お風呂の温度くらいちゃんと確かめてよ!やけどしたらどうするの!」
(私が綺麗になったほうがあんたも嬉しいでしょ!!)

「買い物行くから荷物持ちしてよ!!後食事奢って!!」
(暇なんだったら私と遊ぼう!デートしたいの!!)

意訳するとこんな感じである。
意訳するにはそんなにセンスはいらない。99%の人間には顔と口調の助けで意訳できる。
出来ない人間もたまにはいる。

この部屋のもう一人の人物は…もちろん出来ない人間だった。


(どういうことなのかしら…。まさか私の事なんてどうでも………いやひょっとして他に女がもういて、妊娠させて………ファースト?ファーストなの??…それともまさかヒカリ?まさかビヤ樽?キンパツクロマユゲ?レズ?…どうしよう…ってとりあえず相手は殺してシンジも…)
思考のスピードがいつにも増して、空回っているようだ。この少女はいつもこうである。
大体こういうときはろくな事がない。


「アスカ?」

「ひゃい!!!」

突然の少年の声に少女は素っ頓狂な声で答えた。髪も逆立っていた。赤毛なので鬼みたいに見える。

少年は一言
「今日の御飯どう?」
余裕を持って。

返事は
「お、おいしいわよ。」
ギクシャクと。顔をほんのり赤くしながら。

「そうかな?」

「そ、そうよ。」

「そっか。」


また少年はぼけっと…しなかった。ゆっくりと立ち上がって、少年はテーブルに近づいて少女の隣に座った。

(な、なに?)
また加速する思考。

(な、なんで隣に?っていうか今までこんな事なかったわよ!?)
しかし加速しきる前に。

「アスカ?」

「な、なによ!?」

「大声出さなくても聞こえるよ。あのさ、今日さ…僕と…デートしない?」






「は?」
多分少女の人生で一度も発した事のない声。母国での彼女しか知らない人が、この声を聞いても他人と判断しそうな。




思考が空回った割にはいいことが起きたようだ。









どうして私はここにいるのかしら。
今日は何の予定もない日だったのに。


どうして私の隣にこんな格好をしたシンジがいるの?
あんたは平常心とか書いたいまどき外人でも着ないようなシャツ着てるダサダサ男じゃない。


どうして私は前を歩くシンジと手をつないで、第三新東京市一のデートスポットを歩いてるの?
いつもは、私が引っ張ってデパートをうろつくだけだったのに。


どうしてそんなに自信満々に見えるの?私は恥ずかしいのに。
いつもは全く逆じゃない。男の癖におどおどしてるのに。


「アスカ?どうしたの?元気ないよ?」
あいつの声。何で?
「あんたのせいよ。」
声が自然と恨みがましくなる。
「僕の?」

「いいわ。気にしないで。」

「うん。」

ちらりと手元から肩。首。耳。顔。目。
どれを見ても、いつものおどおどした感じがない。
絶対に変。気にしないでって言ったらいつもは絶対に気にする癖に。



おかしすぎる。


もう限界だ。


「ちょっとこっち来て。」

「いいよ」






ここは、第三新東京市で一番高いビルの展望台。

私はここの壁際の隅、誰も見ないし近寄らないところにシンジと二人でいた。

私はシンジに尋ねようと口を開こうとした。だけどその前に。

「アスカ。今日は楽しかった?」

私に質問してきた。

私が無言で下を向いてると、大体こうしてると慌てるはずなんだけど、今のシンジは口調も声のトーンも変えずに

「楽しくなかった?僕は楽しかったんだけどな。…アスカは可愛かったし。」

「kぁsjdfじあいs!!?」
なになにななななななななに?今なんて言ったの!?!?!?

「あのさ、今日は…言いたい事があって…。」

「そ、それより空が綺麗よ!!えっとあのほらえっとそのあのえと…。」
きっと今顔真っ赤だ。窓に逃げようと体の向きをかえようとすると。

軽く、腕をつかまれた。


「アスカ。真剣な話なんだ。」
そう言ったシンジの顔は、まるであの時の、使徒と戦っているときの顔。
いやもっと覚悟とかがたくさん。

私の顎をつかんで。顔を少し上向きにされた。

目を瞑ってしまった。


唇に暖かさが来た。けれどそれはすぐに無くなって。

「アスカのことが好きなんだ。」
胸に暖かさが移った気がした。

多分1000万分の1秒。

そのくらいの時間の後、私はシンジに抱きついていた。






その後、私とシンジは…何もなく家に帰った。

けれど、そこにいたシンジはまたもとのシンジ。
よわよわでおどおどしてる。
安心した。


だから家に帰って問い詰めてやった。
元のシンジなんだから怖くない。

そこでシンジが言った言葉にあきれ返った。

「アスカが僕以外の男と結婚してる夢を見た。」

ですって。

だから、「誰かにとられるなら、自分らしくなくても行動しようって思った。」

「加持さんみたいにって思って。」
いつものシンジの口調で。



そっか。そういうことだったのね。
どきどきさせてくれたお返しはしないとね!

私もどきどきさせてやらなくちゃね!

せっかく恋人同士になったんだから!!


まずは手始め!

家の掃除をしてるシンジの後姿に向かって一言。
とびっきりの声で。


「恋人同士なんだから…寝るのも一緒だよね?」



あ、こけた…いったそ〜。

移転

やふは使い物にならないので。

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